2021年11月、欧州の大部分で再びコロナが拡大傾向になる中、オランダが『部分的ロックダウン』を行うと発表しました。
それほど現地は危機的な状況なのでしょうか?
この記事ではオランダ在住の筆者が、その様子をレポートします。【2021年11月26日更新】
ガチのロックダウンよりはずっと緩い
2021年10月頃から感染が拡大傾向にあった、オランダ。
その流れが勢いを増すばかりの11月上旬、ついに規制強化が決定しました。
しかしイギリスやドイツに比べ在留日本人も多くなく、大国でもないオランダのことなんて日本では誰も気にしていないでしょ、と思っていたら・・・
なんとヤホーニュースの国際トップに!!しかもコメント数もすごい!!!
・・・と、全くめでたいことではないのに、珍しくて思わずスクリーンショットを撮ってしまいました。
オランダ国内でも今回の規制強化を『部分的ロックダウン(partial lockdown)』と表現している事が多いのですが、では『ロックダウン』という言葉から連想する暗黒めいた状況が現在のオランダなのか?と聞かれたら、筆者はハッキリとNoと答えます。
例えるなら、プチ整形と全身整形ぐらいの差でしょうか。(微妙な例え過ぎる)
ではこの『部分的ロックダウン』とは、どのような内容なのでしょうか?
2021年11月13日の主な変更点
新たな規制は11月12日夜発表、翌13日開始でした。
以下、在オランダ日本国大使館からその主なポイントを引用します。
○コロナ・エントリー・パスの提示が要求されない場所において、他者と1.5メートルの距離を保つ制限を再開する。
○コロナ・エントリー・パスの提示が要求されない場所において、マスクの着用が義務づけられる。
○生活に必須でない店舗(衣料品店、美容院、カジノ等)の営業時間を18時までとする。
○飲食店や生活に必須な店舗(スーパー、ペットショップ、薬局等)の営業時間を20時までとする。
○飲食店においては、コロナ・エントリー・パスの運用と、着席が義務づけられる。
○イベントは、コロナ・エントリー・パスの運用と、着席を義務づけた上で、18時までの開催が可能となる。1施設の最大人数は1250人とすること。
○営業時間の短縮義務は、芸術・文化活動(映画、劇場、コンサートホール等)には適用されない。
○スポーツは無観客試合となる(プロ・アマチュア問わず)。
在オランダ日本国大使館
これを見てもお分かりの通り、今回の規制強化は特定の条件や場所での『営業時間短縮』『マスク着用義務&ソーシャルディスタンスの再開』『人数制限』がメインで、一斉に商業施設が閉鎖したりする訳ではありません。
もちろん夜の営業がメインの飲食店やナイトスポットは大きな打撃を受けるのは間違いありませんが、これに対し政府は新たな経済的サポートを補填するとしています。(参照:Business.gov.nl)
これらの部分的ロックダウンは3週間、少なくとも2021年12月4日まで施行され、その後は状況によって規制が緩和or継続or強化される予定。
さらにその後に予定されている措置に関しても、言及されました。
今後予定されている措置
今後数週間で感染者が減少した場合、政府は可能な範囲で措置を緩和する予定である。その際、コロナ・エントリー・パスの運用が、小売店、動物園や遊園地などへの入場や、職場においても可能となるよう、法的整備を進めている。また近い将来、3G(ワクチン接種証明書、回復証明書、陰性証明書)をコロナ・エントリー・パスとして用いて座席指定ありとするか、2G(ワクチン接種証明書、回復証明書)をコロナ・エントリー・パスとして用いて座席指定なしとするかを、経営者が選べるようにする。このコロナ・エントリー・パスの運用拡大については、議会の承認を経て開始される。
在オランダ日本国大使館
この『コロナ・エントリー・パス』はすでに飲食店や映画館、美術館、イベントなどで幅広く利用されていますが、これが職場などでも適用される可能性がある訳ですね。
さらに場面や状況によって3G(ワクチン接種証明書・回復証明書・陰性証明書)のいずれかで有効とするか、2G(ワクチン接種証明書・回復証明書)のみとするかも11月中旬現在熱い議論が行われており、今後どのような決定がなされるかが注目されています。
【2021年11月26日更新】この日オランダ政府により会見が行われ、飲食店や美容室、映画館など生活に必須の店舗(スーパーや薬局など)以外を17時閉店にするなどの規制強化が11月28日から少なくとも12月19日まで施行されると発表されました。(参照:オランダ政府公式サイト)
オランダの陽性者数やワクチン接種率は?
このようにガチのロックダウンよりは緩いとは言え、部分的ロックダウンの施行を余儀なくされたのは事実。
ではオランダの状況はどのような感じなのでしょうか?
いくつかの基本的なデータを見てみましょう。(以下2021年11月16日時点)
1日あたりの新規陽性者数
まず日々の新規陽性者数を見てみると、とんでもない勢いで増加しているのが一目瞭然ですね。
この背景には2021年9月下旬にいわゆる『withコロナ』へと舵を切り、ソーシャルディスタンスや飲食店の人数制限の撤廃など、大きく規制を緩和・撤廃したことが影響しているのは間違いないでしょう。
しかし、規制を緩和すれば陽性者数が増加するのは折り込み済みだったはず。
つまり焦点は、ワクチン接種により重症者と死者をどこまで抑えられるか?という点です。
陽性者の内訳
その死者数の前に、もう少しこの陽性者の内訳を見てみましょう。
RIVMというオランダ版厚生労働省のような役割を担っている政府機関より、『2021年10月6日〜11月14日の人口10万人あたりの陽性者の年代別ワクチン接種状況』というデータが公表されています。
まず年代で見ると、この期間で一番陽性者が多いのが10代で、次いで30代、そして20代と、若い世代が多くなっています。
そしてワクチン接種の対象になっていない9歳以下は当然のことながら、若い世代ほど未接種者の陽性者が多く、年代が上がるにつれて接種者の割合が増えている傾向に。
RIVMの別のデータによると、ワクチン接種率も概ね若い世代より高齢者の方が高くなっているので、この傾向は自然と言えるかもしれません。
1日あたりの新規死者数
一見すると、陽性者数の増加に比べると死者数は非常に緩やかな上昇に見えます。
実際に2020年春の第一波、そして2020年秋から冬の第二波では1日100人以上の人が命を落とす日も多かったのに比べれば、2021年11月の1日20人台前後というのは、その頃よりまだずっと少ないのは確か。
ただし人口1700万人余りのオランダでこの数字ということは、日本の人口比に換算すると1日あたり200人近くの死者という事になり、すでに日本の最悪時の平均値を遥かに超えています。
さらに陽性者が急上昇中であることを考えると、ワクチンにより率はいくらか下がっても、数が増えていくのは今後も避けられないでしょう。
ではそのキーポイントである、ワクチン接種率はどれぐらいなのでしょうか?
ワクチン接種率
欧州疾病予防管理センター(ECDC)のデータによると、オランダの18歳以上で2回のワクチン接種を終えたのは80.2%
同日時点でのEU全体の平均が76.0%なので、それより高くなっています。
当初はワクチン接種率が70%を超えれば集団免疫を獲得できると世界中で期待されていたものの、変異株の出現もありそれが実現せず、パンデミックを完全に収束させるにはワクチン接種だけでは不充分だったということでしょう。
ではワクチン接種は無意味なのか?というと、そういう訳でもないようです。
再びRIVMによると、2回ワクチン接種した人は未接種者に比べて入院する確率が17倍、さらにICUで治療を必要とする確率は33倍低いとのデータが。
ワクチンに重症化を抑える効果は確かにある。
が、全く予防や対策をしないような生活に戻すとたちまち陽性者で溢れ、率は減少してもそれに伴い重症者数も増える、というのがオランダの状況でしょうか。
仮にワクチンの重症化を防ぐ効果が97%でオランダの全国民の70%が接種したとしても、単純計算でワクチン接種済みでも約36万人が効果なし(不充分)・未接種者は約516万人という事になります。
この状況で『withコロナ』に踏み切るのは結果的には冒険過ぎた、という事かもしれません。
部分的ロックダウン後の人々や街の様子は?
2021年9月下旬に大きな規制緩和をしてから2ヶ月も経たず、再び部分的ロックダウンという結果。
さらにこの記事を書いている2021年11月16日時点でも、今後のさらなる規制強化(完全ロックダウンや2Gルールの開始など)の可能性が活発に議論されており、感染が落ち着いていた夏頃の楽観的なムードは一気に去ってしまったかのよう。
ではオランダの人々はこの状況を真剣に捉え、感染対策をビシッとするようになったか?と言うと、うーーーーーん…残念ながら個人的にはそうは思いません。
例えばオランダでは一度撤廃された屋内でのマスク着用義務が11月6日から一部復活したのですが、屋外での着用義務はないまま。
そのため賑やかなショッピングストリートなどでも、一歩店の外に出たら即座にマスクを外す人が多く、それは部分的ロックダウンが開始した直後でもあまり変わっていないように見受けられました。
そしてオランダの街の様子ですが、人出がある程度減っているのは事実としても、昼間街を歩くだけなら、報道されていたような『ロックダウン』という雰囲気はまず感じません。
各店舗や飲食店は普通に営業してますからね。
ちょうどこの記事を書いている2021年11月16日、サッカーオランダ代表はカタールワールドカップ出場を決め、繁華街でも何でもない筆者の家周辺でも、深夜近くまであちこちから花火や歓声が。
部分的ロックダウンで軒並みバーやクラブが閉まっていても、おとなしく家に引きこもっている人ばかりではなさそうです。。。
部分的ロックダウンでも他国への渡航は自由
このオランダの『部分的ロックダウン』がどれだけ「ロックダウンっぽくないか」を象徴するもう一つの例として、こんな状況でも他国への渡航制限がない点が挙げられます。
これだけコロナの状況が悪ければ他国から入国拒否されても不思議ではない気がしますが、そもそも欧州各国どこも状況が悪いからかそのような厳しい措置を行なっている国はなく、何を隠そう筆者もこの部分的ロックダウンが開始する前夜の夜行バスでフランスに行きました。
もしこれが日本だったら、こんな時に旅行なんて!自粛しろ!!の大ブーイングが起きそうですが、オランダでは誰も気にしてません。バスもほぼ満席でした。
筆者は11月13日にパリで行われたW杯予選フランス×カザフスタンを観に行ったのですが、後からニュースで見たところこの日からオランダの飲食店が20時クローズになったこともあり、隣国ベルギーに飲みに行った人も多くいたようです。
感覚的には東京で感染が拡大し東京で規制強化されたから、埼玉に遊びに行く、みたいなノリでしょうか。
このように、2020年の時のような文字通りの国境封鎖が起きない限り、ロックダウンだろうが何だろうがお構いなく人々は普通に往来を続けることでしょう。
オランダ在住者の率直な感想
移民大国でもあるオランダでは、宗教・習慣・衛生概念・教育etc.などバックグラウンドが全く異なる人々が共に生活しており、日本のように『要請』レベルで大多数がすんなり従ってくれるような奇跡は、まず望めません。
再びWorldometers.infoのデータによると、11月16日時点で直近7日間の人口100万人あたりのオランダの新規陽性者数は日本の600倍以上なのですが(!)、そんな状況でも全体的には日本人の方が用心深く生活している気が…それぐらい根本的に意識や行動レベルが違うと個人的には感じます。
そしてそれは、何十年と染み付いた感覚が根底にあるので、簡単に変えられるものでもないでしょう。
これは良し悪しではなく、単に個性や文化の違いです。
おそらく多くの日本人からすると、「マスクぐらいしろや」「三密避ければいいだけやん」と軽く思ってしまうんでしょうが、それがこちらの多くの人はしたくないんです。
例えるなら、日頃からある程度食事制限や運動をしてる人は、「ダイエットするには甘い物を控えたり運動すればいいだけでしょ」と簡単に考えますが、運動嫌いでスイーツ好きのデブにはそれがとんでもない難題に思えるような感じでしょうか。
ということで、オランダでは個々の判断や自主性に任せていたら病院がすぐに埋まってしまうので、この部分的ロックダウンという政府の判断はやむを得ないと思っています。ベストではないかもしれませんが、おそらくマストでしょう。
まだまだコロナ終息への道は長そうですが、この瞬間も働き続けている医療従事者の方々に感謝しつつ、忍耐強くその日が訪れることを祈るばかりです。