スペイン北部のサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路は世界遺産にも登録された、キリスト教で最も重要な巡礼路の一つ。
フランスやポルトガルからを含め、様々なルートを数百㎞と歩く巡礼では、時期選びは非常に重要なポイントです。
この記事では巡礼を3回経験した筆者が、サンティアゴ巡礼に良い時期・避けるべき時期をまとめました。【2024年4月追記】
サンティアゴの気候は夏がベストだが…
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さて筆者は以前、サンティアゴ巡礼路のゴール地であるサンティアゴ・デ・コンポステーラの気候やベストシーズンについて、こちらの記事でまとめました。
ザ・太陽の国!という典型的なスペインの気候とは全く異なるスペイン北西部のサンティアゴでは、気候的には暑すぎず昼も長い夏が、最も快適な季節なのは間違いありません。
しかし、そのサンティアゴに辿り着くまでに東から南から何百kmもの道を何日・何十日とかけて歩いて来るのが、サンティアゴ巡礼です。
1年で巡礼者が一番多いのもこの夏で、巡礼者用の宿アルベルゲが満室になることも多く、そうすると次の村まで数km歩いたり一般のホテルに泊まったりする必要があります。
日程的にも金銭的にも充分余裕がある人であれば問題はないでしょうが、予め日程や予算がきっちり決まっている場合は、一般の宿泊施設の料金も高くなるピークシーズンの夏は、ややリスキー。
さらに気温的にはあまり高くなくても、日陰が全くない道も多い夏の巡礼路を何時間も歩くのは、思った以上に体力を奪われます。
そのため7月・8月の巡礼を考えている人は、混雑による予定変更の可能性や体力的な負担を考慮しておいた方が良いでしょう。
では夏はデメリットばかりかと言えば、そういう訳でもありません。
ルートや目的によりベストシーズンは異なる
日本でも春夏秋冬それぞれにメリット・デメリットがあるのと同様に、サンティアゴの巡礼路にも季節ごとに特徴があり、一言でいつがベスト!と断言するのは難しいものです。
上で夏のサンティアゴ巡礼の注意点を挙げましたが、例えば「混雑する」というデメリットは、見方を変えれば「世界中からの巡礼者と知り合える」というメリットにもなります。
また、サマータイムを導入しているスペインでは6月の昼の時間が12月より5時間以上長く、やはり明るい中で歩けることや宿に着いた後も遅くまで街散策やグルメを楽しめることは、大きな魅力でしょう。
7月・8月ほど混まず、なおかつ気候的に歩きやすい4月〜5月と10月〜11月辺りは、特に初めての巡礼には最も無難と言えるかもしれません。
それ以外にも、ルートによって知っておきたいポイントがいくつかあります。
“フランス人の道”
数あるサンティアゴ巡礼路の中で、一番人気のルートが“フランス人の道”。
その名の通りフランスからピレネー山脈を越えてサンティアゴまで約800km続くルートで、アルベルゲや標識も非常によく整備されていることから、初心者にも向いています。
ただしフランスのサン・ジャン・ピエ・ド・ポー(St Jean Pied de Port)をスタートしてすぐのピレネー山脈を始め、このルートには標高1000mを超えるポイントが4ヶ所あります。
降雪もあるこれらの山岳地では転倒などの危険が高くなるので、11月〜3月頃の巡礼はこれらの高地を避けるのが無難。
それでも冬に巡礼したいのであれば、サンティアゴまで114kmで高低差も激しくないサリア(Sarria)からスタートするのが良いでしょう。
“銀の道”
スペイン南部アンダルシア地方の州都セビージャ(Sevilla)から続く約950kmに渡る“銀の道”は、その長さ故に全行程を歩く日本人はまだ多くありません。
アルベルゲもフランス人の道ほど多くなく、村と村の距離が長い区間もあるため、例え上級者でもどの行程を歩くかはよく検討した方が良いでしょう。
スタート地であるアンダルシアは夏の暑さが過酷、逆に冬は小さな村だとアルベルゲや宿泊施設、飲食店が閉まっている場合も多いため、春(4〜5月)か初秋(9月)にスタートするのがベストです。
巡礼者が最も多い&少ない時期は?
客観的かつ基本的なデータとして、毎月どれぐらいの巡礼者が歩いているのか?というポイントも見ておきましょう。
CaminoWays.comというサイトにコロナ前である2019年の月別の巡礼者数が紹介されおり、グラフにするとこのようになります。
注意点として、この人数はゴール地であるサンティアゴで『巡礼証明書』が発行された日としています。
つまり、例えば「8月1日にスタートして8月31日にゴール、9月1日に巡礼証明書を発行」した場合、8月ではなく9月にカウントされるということに。
とは言え、ざっくりとしたイメージには役立つのではないでしょうか。
やはり頭一つ抜けて多いのは夏のバカンスシーズンである8月、次いで7月、9月、僅差で6月という順。
一方で冬季の12〜2月は極端に少なく、10月→11月の間で一気に少なくなっているのも見逃せません。
ちなみに筆者は10月下旬から11月中旬の時期に初めての巡礼を行なったのですが、まさにオフシーズンに突入していく時期、というこの数字通りの印象でした。
10月下旬ですでに閉まっているアルベルゲもあった一方、大きなアルベルゲを少ない巡礼者で広々と利用できるなど、やはり良い点・不便な点があると感じました。
多くの巡礼者と仲間になりたい、1人で黙々と歩きたい、観光もセットで楽しみたいetc、それぞれの目的や期待する雰囲気に合わせて時期を選択すると良いでしょう。
【2022年1月追記】2021年の暮れから2022年1月上旬に、2度目のサンティアゴ巡礼を行なってみました。冬の巡礼を考えている人はぜひ参考にしてみてください!
【2022年4月追記】2022年は特に混雑する可能性大!
さて筆者が2021〜22年の年末年始に2度目の巡礼を行なった時は、真冬だったことに加えてまだオミクロン株の大流行中でとにかく巡礼者が少なかったのですが、それから数ヶ月で状況は全く変わっているようです。
スペインを始め欧州各国は内容やタイミングこそ国ごとに違えど、コロナ規制をどんどん緩和あるいは撤廃。
渡航が容易になったことで、特に2020年&21年にコロナ禍で巡礼を断念した世界中(とりわけヨーロッパ外)の巡礼者が2022年に押し寄せる可能性が。
というのも、この2022年はXacobeo(シャコベオ)という聖年とされているからです。
ふむ、聖年とは??
使徒ヤコブが殉教した7月25日が 日曜日に当たる年が聖年となります。
(中略)
また、聖年の年になると、巡礼者の数が大きく増加します。 聖年の年にサンティアゴを訪れると、 聖年の大赦(the Jubilee)と呼ばれる罪の免除を受けることができるからです。
PILGRIM.
いかにもカトリックらしい感じですが、実際にはこの聖年は2021年でした。
しかしご存知の通り2021年はコロナ禍の影響が大きく、特に欧州外からの渡航が困難な状況だったため、1年延長という特例を実施。
現代では自然鑑賞やスポーツの一環など、宗教的な理由以外でサンティアゴ巡礼を行なう人が増えていますが、やはりこの特別な年に巡礼を行ないたいというキリスト教徒は多いのでしょう。
なお2022年の後は2027年、そして2032年が聖年となるので、これらの年も同様に巡礼者が激増することが予想されます。
そのためもし宗教的な目的が全くない巡礼の場合、混雑を避けるために聖年は外すことを考えても良いかもしれませんね。
【2023年1月プチ追記】時期選びの重要性は高まっている
2022年は聖年でとりわけ巡礼者が多く、年間の巡礼者は約43万8000人、統計開始以来最多だったようです。(参照サイト:vivecamino)
聖年が終わった2023年以降はこれよりは少なくなることが予想されますが、それでもコロナ禍だった2020年〜2021年を除けば増加の一途を辿っていたことを見ても、その人気は今後も加熱していくでしょう。
筆者は2022年12月下旬から2023年1月上旬に『イギリス人の道』を巡礼してきたのですが、巡礼者が激増する現在、時期やルート選びはより重要になっていると感じました。
静かに自然鑑賞したい、多国籍の巡礼者と交流したい、なるべく予算を抑えたい、体力に自信がなくどれくらい歩けるか分からないetc,自分の巡礼の目的や望む雰囲気、体力や予算に合わせてベストの時期&ルートを慎重に選択しましょう。
サンティアゴ巡礼で避けるべき時期は?
ではこのような特徴から、改めてサンティアゴ巡礼で避けた方が良い時期をまとめてみましょう。
まず繰り返しになりますが、標高が高いルートを通る場合、11〜3月頃は避けましょう。
また標高の高さや道の険しさに関係なく、巡礼者が少ない冬は何かトラブルがあっても周りに誰もいないことが多いため、なるべく1人ではなく2人以上のグループで歩くことも大切です。
1人で巡礼すること自体は全く珍しくなく、数百年前と違ってインターネットもあれば道の舗装レベルも違うので、命の危険にまで及ぶことは極めて稀になっています。
それでも巡礼中の怪我や体調不良で棄権する人は現代でも珍しくなく、特に気候的に厳しい冬はリスクを少しでも減らして巡礼に向かうようにしましょう。
(→ちなみにこんなことを書いておきながら、筆者は真冬の巡礼を2回とも1人で歩きました。冬はとにかく巡礼者が少ないため、歩くペースが同じ巡礼者になかなか出会いません・・・。)
逆に夏の7月・8月は多くの巡礼者が歩く、活気ある時期。
その分、朝早く出発しないと早い者勝ちの公営アルベルゲは埋まってしまっていることも多く、特に一番人気のフランス人の道の最後の100km辺りが大混雑する傾向にあるため、マイペースに巡礼したい人は注意が必要です。
サンティアゴがあるガリシア地方はスペインの中では暑さがマイルドな方ですが、突然熱波により気温が上昇することもあるため、熱中症には充分注意を。
直射日光も強いので帽子・日焼け止め・サングラスなどは必須で、こまめな水分補給や休憩も忘れずに。
すでに書いたように、その冬と夏の間の春&秋は巡礼しやすい季節ですが、急な気温や天候の変化には対応できるように準備しましょう。
特に山間部は天候が変化しやすく、雹やみぞれに見舞われる事も。
どの季節であっても、油断はせずしっかりと準備をして挑むことが重要なのではないでしょうか。
夏にフランス人の道を歩くのはデメリット大?!
すでに上に書いたことの繰り返しのようになりますが、2023年も年間の巡礼者数が歴代最多記録を更新したほど(※)『サンティアゴ巡礼フィーバー』が加熱する中、最も巡礼者数が多い6月〜9月頃×一番人気のフランス人の道を選択するのは、メリット<デメリットと感じます。
※参照:Oficina del Peregrino
巡礼者数が多い=たくさんの人と知り合えると書いたことと矛盾するようですが、特に夏は学生や知り合い同士の数十人のグループで巡礼する人も多いです。
1人や2人で巡礼している場合、こういった数十人で行動する団体の巡礼者と仲良くなるのは結構ハードルが高いですよね。
さらに巡礼中に最も他の巡礼者と交流しやすいのが巡礼者専用の宿泊施設・アルベルゲなのですが、収容人数には限りがあります。
アルベルゲは原則事前予約不可の先着順のため、満室の場合、時に巡礼ルートからも外れた一般の宿泊施設に泊まるハメになります。
つまり毎年巡礼者数が増え続け供給<需要という図式が顕著な今、一番人気のフランス人の道を歩きたいなら、なるべくオフシーズンを選ぶのが無難だというのが筆者の考え。
こちらは2023年のルート別の巡礼者数を月ごとに表した、分かりやすいグラフです:
特に映画や本からサンティアゴ巡礼を知って、「スピリチュアル」「神聖」「のどかな田園風景」といったイメージを期待して巡礼する場合、この最新のデータをよくチェックして時期&ルートを決めることを強くおすすめします。
コロナの影響は?
さて2020年以降はどこに行くにもコロナの規制や制限を確認しないといけない時代になりましたが、サンティアゴ巡礼も例外ではありません。
スペインを始め欧州では日本のお願いベースの「要請」とは違い、破ったら罰則付きの「規制」が課せられるため、現地の最新情報をチェックすることは重要です。
そして厄介なのは規制は国ごとはもちろん州や自治体ごとに異なることもあり、また規制変更の告知も直前であることがほとんど。
幸いなことに2022年春、タイミングや具体的な内容に差はあれど欧州各国はコロナ規制をほぼ撤廃し、多少の感染状況の悪化/良化でいちいち規制を強化/緩和することはなくなっています。【2022年8月現在】
しかし、今後また状況が変わり、規制が復活する可能性もゼロとは言えないでしょう。
実際に筆者はオミクロン株が大流行中の2021年末から2022年1月上旬にかけて巡礼を行ないましたが、このオミクロン株対策としてポルトガルでは『2021年12月25日〜2022年1月9日まで宿泊施設利用時には陰性証明提示(ワクチン接種済みの人も必要)』といったピンポイントの規制強化を2021年12月21日に発表。
それを知らなかった筆者は予約済みの宿にチェックインできず、そのまま閉店間際のドラッグストアに駆け込み検査キットを購入、宿の入口で検査をして無事にチェックイン、ということもありました。
もちろんコロナが完全に収束することが理想ですが、特にEU外に在住する人は、まだしばらくは自己判断・自己責任で巡礼に行くタイミングを決めることをおすすめします。
まとめ
日本からの巡礼者も増えている、スペイン北部のサンティアゴ巡礼路に良い時期・避けるべき時期を解説しました。
春夏秋冬があるスペインでは、新緑の春から紅葉の秋まで、どの季節にも独自の魅力があります。
しかし、ただ観光するだけでなく数百kmを歩いて巡礼するとなると、ある程度の下調べや準備は必要です。
日程・体力・予算・目的を充分考慮し、あなたにとって最適の時期に巡礼を経験してみてくださいね。