新型コロナウィルスが発生して1年半以上が経った2021年夏。
欧州ではワクチン接種が進み順調にコロナ前の日常を取り戻しているように見えましたが、サッカーの祭典EUROでのクラスターもあり、再び感染が拡大傾向に。
その現況を欧州在住の筆者がまとめました。
ポルトガルでは再び夜間外出禁止令!
2021年7月1日、いよいよ本格的な夏のバカンスシーズンが始まり各地が人出で賑わう頃、思わぬニュースが入ってきました。
ヨーロッパの夏のバカンス先として屈指の人気を誇るポルトガルの45もの自治体で、夜間外出禁止令が再発令するというのです。
(参照:Reuters)
この45ヶ所には首都リスボン、北部最大の都市ポルト、南部のビーチリゾート・アルブフェイラなどポルトガルの主要都市がバッチリ含まれています。
人口およそ1000万人のポルトガルは2021年1月に最大で1日1万6000人を超える新規感染者を出す悲惨な状況に陥りますが、厳しいロックダウンやワクチン接種の成果もあり、春には1日1000人以下に。
2ヶ月以上安定した状況が続いていましたが、5月半ばに英国からの観光を再開すると感染力が高いとされるデルタ株の拡がりもあり、6月から再び上昇傾向になります。
covidvax.liveというサイトのデータによると、ポルトガルでは7月4日時点で約59.7%が1度はワクチン接種済み、そのうち37.6%は2度目も接種済みとのこと。
同じくReutersの記事によると現在の感染者はワクチン未接種の若い世代を中心に拡がっており、病院での治療を要する患者も増えてはいるものの1月のピーク時よりはまだ遥かに少ないとしています。
それでも夜間外出禁止令(23時〜5時)に加え、リスボンなど特にリスクが高いとされる地域は週末のレストランやカフェの営業が15:30までに制限されるなど、厳しい規制に逆戻りしているのは感染が爆発的に拡大する前に抑え込もうという意図があるのでしょう。
欧州を代表する観光大国が夏の始まりに早々に躓いてしまったような形ですが、これはポルトガルだけなのでしょうか?
欧州内でも感染状況は明暗が分かれている
2021年春から初夏にかけて、欧州各国はワクチン接種が進むこともあり徐々に観光客の受け入れを再開します。
タイミングや対象国は各国で異なっていたものの、7月1日にはEU共通のデジタル証明書(“EU Digital COVID Certificate”)の運用がスタートし、さらにEU域内の移動が活発に。
が、その7月上旬時点ですでに各国で感染状況は大きく明暗が分かれています。
EU非加盟国も含め、欧州の主な国の状況をチェックしてみましょう。
(参照データ:Worldometers.info・2021年7月4日時点)
【2021年7月4日現在】感染が拡大傾向の国
View this post on Instagram
過去7日間の新規陽性者数 | 前週との比較 | 過去7日間の死者数 | 前週との比較 | |
イギリス | 161862人 | +67% | 118人 | −1% |
ロシア | 155046人 | +18% | 4579人 | +21% |
スペイン | 48634人 | +88% | 129人 | +9% |
フランス | 15211人 | +17% | 197人 | −15% |
ポルトガル | 13996人 | +57% | 29人 | +38% |
ギリシャ | 4677人 | +82% | 73人 | −33% |
アイルランド | 2824人 | +31% | 11人 | +10% |
デンマーク | 2156人 | +65% | 6人 | +500% |
フィンランド | 1383人 | +92% | 4人 | +100% |
おそらくニュースで見た人もいると思いますが、最も顕著なのがイギリスです。
イギリスはワクチン接種が非常に進んでいたため規制緩和も快調に進んでいましたが、デルタ株の抑え込みに失敗、再拡大を招いています。
これによりイングランドでは段階的な規制緩和の最終ステップが6月21日から4週間延期されましたが、BBCなど各メディアによるとその後も拡大が続いている状況にもかかわらず7月19日に予定通り緩和が施行される模様。
ロシアも感染拡大が続く国の一つで、ワクチン接種率の低さから重症化率の高さも際立っています。
この表以外の国ではチェコ、クロアチア、そして英国からの渡航者も多いマルタやキプロスなども陽性者が増加していますが、これらの国では死者数の増加はまだ見られていません。(2021年7月4日現在)
【2021年7月4日現在】感染が安定傾向の国
一方で、感染が落ち着いている主な国はこの様になっています。
過去7日間の新規陽性者数 | 前週との比較 | 過去7日間の死者数 | 前週との比較 | |
イタリア | 5222人 | −8% | 165人 | −26% |
ドイツ | 3904人 | −15% | 280人 | −20% |
スウェーデン | 1657人 | −12% | 1人 | −83% |
ポーランド | 649人 | −30% | 109人 | −28% |
オーストリア | 471人 | −37% | 10人 | −50% |
ルーマニア | 334人 | −12% | 26人 | −38% |
ハンガリー | 287人 | −40% | 12人 | −60% |
スロヴァキア | 165人 | −29% | 8人 | −58% |
陽性者数だけでなく、死者数も大きく減少していることが伺えますね。
これ以外にもウクライナ、リトアニア、ボスニア・ヘルツェゴビナなども安定。
中欧諸国は安定している国が多いものの、バルカン半島では隣国同士でも増加傾向の国と減少傾向の国が入り混じっており、今後もどのように変化するかを予想するのは難しそうです。
検査数の違いも大きい
欧州内でも陽性者数の増減の違いが大きいことが分かりましたが、検査数にも差があることは頭に入れておかないといけません。
こちらはEU加盟国限定なので完全なデータではありませんが、ECDC(European Centre for Disease Prevention and Control)というサイトで毎週木曜に各国の感染状況をマップで示しており、7月2日に更新された人口10万人当りの検査数はこの様になっています。
例えば陽性者数が増加しているギリシャやデンマークでは人口10万人当たりの検査数が5000回以上なのに対し、減少しているドイツ、ポーランド、ハンガリーなどは300.1〜999.9回で、少なくとも5倍以上の差があることになります。
国によっては特定の店舗や施設、イベント利用時にワクチン接種証明や検査の陰性証明を求めていることもあり、それにより検査数が増加→陽性者数も多いという流れも考えられるでしょう。
こちらのデータも毎週更新されるためあくまでも2021年7月上旬時点でという但し書き付きですが、この中で検査数が多くなおかつ陽性者数が減少しているオーストリア・スロヴァキア・スロヴェニアなどは最も安定していると言って良いかもしれませんね。
感染拡大はEUROが原因?
View this post on Instagram
さてこの2021年6月から7月にかけて欧州サッカーの祭典・EURO2020が行なわれ、各地で大型クラスターが発生していることが各メディアで取り上げられています。
ロシアのサンクトペテルブルクで試合を観戦したフィンランドサポーター約300人が帰国後に陽性と確認され、その数日後にはイングランド戦をスタジアムやパブで観戦したスコットランドサポーター約2000人が陽性に。
(参照:NHK、BBC)
イギリスではEURO開幕前から感染がすでに拡大していたものの、そのスピードを上げる要因の一つになっていることは間違いないでしょう。
一方で11の開催地で唯一満員の観衆を動員し話題のハンガリーでは、感染状況はむしろどんどん良化しています。
上記の通り検査数が少なめという点はあるとしても、同じくECDCのデータによると陽性率も1%未満と低いため、実際はめちゃめちゃ拡大しているのに検査数を減らしてごまかしているということもなさそうです。
開催国10ヶ所の7月4日時点の状況をまとめると、以下の通りに。
拡大傾向:イギリス・ロシア・スペイン・オランダ・デンマーク・アゼルバイジャン
減少傾向:イタリア・ドイツ・ハンガリー・ルーマニア
ちなみに筆者が住むオランダでは4月から段階的に規制緩和を続け、感染状況もずっと減少傾向でしたが、6月26日に大規模な規制緩和を行なった後ついに増加傾向に。
オランダメディアではこの増加が規制緩和によるものなのか、あるいはデルタ株の拡大や検査数の増加、はたまたEURO開催によるものなのかはまだ不明としています。
個人的にも、EUROによって発生したクラスターがあるのは事実でも全ての国の感染増加をEUROに結びつけるのは無理があるかなと思います。
開催国ではないポルトガルを例にとっても、EURO開幕前から観光業の再開と共に感染がすでに拡大していた国あり、規制を緩和し人の行き来が増えれば感染も拡大するのは万国共通ですからね。
2020年と違い2021年はワクチン接種が希望となっていたのが、変異株のせいもあり重症化はともかく感染そのものの拡大をストップさせるには効果が不充分だったということでしょう。
2021年も旅行時は要注意?
ワクチンが存在していなかった2020年と違い、2021年はワクチンを接種したらいざ旅行へ!と意気込んでいた人は多いでしょうし、観光業に大きく依存する国側もそれは同様です。
しかしワクチン接種が進んでいてもすでに感染が拡大傾向にある国もあり、一気にコロナ前の日常に戻ったと言うのにはまだ早そうです。
多くの国では陽性者の増加ほど死者数はまだ増加していないものの、今後さらなる変異株が発生すればどうなるか分かりません。
ポルトガルのように早い段階で突然規制強化を行なう可能性もあり、旅行者はあらゆるリスクを想定して旅の計画を立てる必要があるのではないでしょうか。
【追記】7月9日には地中海の観光エリート国マルタが7月14日以降ワクチン接種を入国要件とすることを発表し、すでに旅行を予定していた人達から悲鳴が上がっています。
国内の規制が強化されるだけならまだしも、マルタのように入国時の規制が突然強化されると渡航そのものができなくなる可能性もあるので、極めて重要です。
こちらは、1年前の2020年夏に書いた記事です。
残念ながらと言いますか、1年経った2021年でも欧州に渡航時にはこういった意識や心構えが必要なのかなと個人的には思います。
筆者が住むオランダでも全体的なムードとしては非常にリラックスしている印象ではありますが、イギリス・ポルトガル・スペインなど他国で感染が拡大しているニュースは当然多くの人が目にしています。
そのためオランダでも(おそらく他国でも)すでにコロナは過去のもの!とまで楽観的に考えている人は少なく、いずれ新たな波が来るかもしれないことは頭の片隅で認識している人が多いはず。
そういった状況の中で、規制が緩和されている内に思いっきり旅行・外食・イベントなどを楽しもうという人もいれば、当面は自粛しようという人もいるでしょう。
これはどちらが正解とか、良い悪いではないと思います。
好きでコロナに感染する人は少ないでしょうが、経済を回すことも重要ですし、特にワクチン接種済みや抗体を所持している人が積極的に行動するのはごく自然なことでしょう。
観光やビジネス、家族訪問など様々な理由で欧州を訪れる人が、コロナに感染することなく経済をガンガン回してそれぞれの時間を楽しむことができれば理想的ですが・・・果たして。
まとめ
2021年7月、欧州の一部の国で感染が再拡大していることについて在住者がまとめました。
個人的な感覚でも自分が住んでいるオランダ、6月下旬に訪れたハンガリーとオーストリアはいずれもリラックスし、ほぼコロナ前の雰囲気と変わらないような印象を受けています。
その一方で感染が再拡大している国がいくつもあり、人の流れを完全には止めていない以上、いずれその波は欧州全体に拡がるのではという覚悟もしています。
その際にどれだけ重症者が増えるか、そして規制が強化されるかが焦点で、多くの人がコロナに苦しんだりロックダウンに逆戻りしたりしないように願うばかりです。